カラカラと鐘の鳴る重々しい扉を開け、コーヒーと煙草の煙が立ちこめる店内へ一歩足を踏み入れる。カウンターの向こうからマスターのぶっきらぼうな挨拶と、身を刺すような常連客らしき人達からの目線。

明らかに場違いなところへ来てしまった。そう後悔したものの、もう遅い。ただ休日をのんびり過ごそうといつものファーストフード店を避け、何度か前を通ったことのある喫茶店で文庫本を開こうと思ったのだけれど、慣れない場所のせいか、のんびりどころか妙に緊張してしまい本に意識が集中できない。このコーヒーを飲んだら家に帰ろう。家に帰って甘栗を食べよう。

そんな悲しい経験はありませんか。僕にはあります。そこには僕自身が人見知りだということも多分に関係しているのだろうけれど、それにしてもマスター愛想ねぇのな!そして常連さんの入院話、声でけぇっす!

といった、コーヒーよりも苦い経験を基に、怖くない喫茶店を始めます。

「喫茶店は怖くなくっちゃ!」という怖い喫茶店マニアの方には物足りないかもしれません。でも、そういう店、いっぱいあるじゃん。「ウチのコーヒーはブラックで飲んでもらわないとなぁ」的な。そういうの、いい。僕がお出しするコーヒーにも思い入れはあります。でも、こだわりはありません。だから牛乳とか、入れよう。ね。も、いっそ、練乳もいれよう。あまいぜー。でも、それがいいなら、それでいいじゃん、というスタイルで。

「cai」の営業時間は夕方の5時30分からです。それまでの時間は父親と母親が「花とおじさん」という名前でやっております。こっちはこっちで濃いんです。濃い、っていうか特濃。「怖い喫茶店マニア」が泣いて喜ぶ、というわけではないけれど、なかなかパンチの効いたマスターとママさんとして常連のお客さんに可愛がっていただいている様子です。

常連のお客さんも打ち解けてしまえば皆さん愉快な方達ばかりだけれど、一見さんでこのコミュニティに入れる人がいたら、どんな度胸だよ、と思う。というかそれってもはや道場やぶり?とも思う。

そんなわけで、店舗としては同じ場所ではありますが、夕方の5時30分を境に「花とおじさん」はいったん閉店した後、BGMを変え、店内のレイアウトを変え、使うコーヒー豆を変え、改めて怖くない喫茶店「cai」が開く、というカタチをとることにしました。


ここでたった今飛び込んできた超マル秘情報ですが、僕はパン屋で働いております。お昼過ぎまでパン屋で粉まみれになった後、夕方から「cai」に立つ。齢30を迎える身体にそんな二足のわらじが少々キツい日もありますが、でもやっぱり立つ。あ、こけそう、ヨロヨロしてる、こけるかな〜、こけるかな〜、…立ったぁ(照)、といった雰囲気で、立つ。

そうまでしてお店に立つ理由を問われたならば、世界の広さを身体で感じたいから、と答えます。…結構いい言葉だな。どうしてお店に立つのですか、と問われたならば、

世界の広さを身体で感じたいからです。

…うん。いい、いいよ。こんなことを言う人になら、確、実、に、抱かれたい。抱きしめられたい。抱き寄せられて、抱き上げられたい。お姫様風に。お姫様だっこられたい。だっこられたいか、だっこられたくないか、って問われたら、

お姫様だっこられたい。

…別にここは太字にするところじゃなかった。でもやりたかったら、これはこれでいいです。

閑話休題。やっぱり、というか何というか、世界は広い。広すぎる。あと、人も多すぎる。これだけたくさんの人がいて、話を聞いてみたい人もたくさんいるのに、知り合うことすらできないって何だ。あれか、「人は見た目が9割」か。ごめんね、腐りかけのへちまみたいな風貌で。へちまは自由研究の観察対象になるけれど、へちま人間は観察対象にもならんってか。…レッツ恋ぃ〜。

しかし希望します。たくさんの人と知り合うことを。今まで知り得なかったたくさんの人が毎日生きている、という事実を身をもって体験することを。
スーパースターはテレビで観られる。友達とは連絡すれば会える。でも、知らない人と話をするのはどうやったらできるんだろう?


その問いの解答として、喫茶店のマスターになります。一見さんお断り、どころか、一見さん超カモンです。水なんてね、ぱぱぱーっと出すね。「いらっしゃいませー」って元気よく言っちゃうもんね。あと、差し障りのない天気の話もするもんね。そこいらで「そっとしてくださいね」という方には、すすすーっと潔く、借りてきた猫のように大人しくします。略してカリネコ、カリオストロの猫といった塩梅で。

でも、話してくださるのなら尻尾を振ってお相手いたします。人見知りだけど、話すの好き。あと、知らない人の知らない話、好き。写真、ジョギング、音楽、デザイン、パン、コーヒー。そういった話も好きだけれど、こだわりはありません。知らない会社の人間関係とか、知らない人が昨日何食べたとか、そういう話、好き。別に何がどうなるってわけでもないんだけど、「世界は広いねんなぁ、みんないろいろ考えてはるんやなぁ」って、思えるの、楽しいじゃないですか。もっと言えば「同じ時代に生きて、なんの縁か会うて、お茶飲みながらぼそぼそ話す」いうだけで、なんやおもろいなぁと思います。


それでは一度「cai」に行ってみようかな、と思ってびっくり、宝塚って遠い。どこからも遠い。陸の孤島、完全なアリバイ、途切れた血文字のダイイングメッセージ。わかりました……犯人は、あなただーーーーーっ(ぎくーーーー!)。

…何の話だっけ?そう、宝塚は遠い、という話だ。…わりと悲しい話をしていたのですね、僕は。

そんなところまで行けないよ、会ってやるから宝塚から出て来い、とおっしゃりたい気持、わかるざます。アタシには、よーくわかるざます。でもちょいとお待ちください。ここは大事なところざます。深呼吸してテーブルの上にある葡萄酒を飲むざます。そう、くくくーっと。…飲みましたね。何も知らずにスヤスヤと眠ってしまいましたね。ではさっそくこの家に伝わる宝石、「三毛猫のサファイア」を頂戴するといたしましょうか…。何!三毛猫の剥製の瞳が空っぽ…そして鏡に口紅で書かれた「サ・ヨ・ウ・ナ・ラ」。…やられたーーー!!またしても怪盗ルージュに先をこされたざますー(ぐやじぃぃぃっ)。

やめよう。話がちっとも進まない。

事実、宝塚は確かに遠いけれど、喫茶店店主(とお客さん)という肩書きでもないと、知らない人と会うってのはいくら何でも怪しくはないでしょうか。それに、ゆっくりお話をするぶんにはウチのお店もそれほど悪くない雰囲気だと思うのです。移動時間には多少目をつぶっていただいて、宝塚へ小旅行がてら「へちま人間観察」に来ていただけたら、お互いにとって、きっと楽しいだろうなぁと思うのです。

自らの庭とも言える「cai」にお招きするには、それだけの準備があると解釈していただいて構いません。わざわざ宝塚へ行く、へちま人間に会いに。それだけの手間ひまをおかけする以上、それなりの「おもてなし」をさせていだたきたいと思っています。
それがお客さまのご希望に沿ったものではないかもしれません。その時は……ごめん。いっこく堂さんの物真似するので許して(やったことはない)。…あれ……声が……遅れて……聞こえるぞ…って。テキストで書いてるうちにできそうな気がしてきた!


そんなわけで、いつかあなたにお会いできる日を心待ちにしております。

カフェは楽しい。喫茶店は、僕らしだい。



《インターネット特典》

このページをご覧の皆様に素敵なプレゼントのお知らせです。

「cai」にご来店いただいた際、「インターネットを見た」とおっしゃっていただいた方にはお土産話として『先日、祖母のお葬式に妻の喪服を着て出席した話』をプレゼント!

*プレゼントには数に限りがございます。品切れの際はご容赦ください。




〒665-0072 兵庫県宝塚市千種4-14-44(地図はこちらから)
tel:0797-77-8401

営業時間
花とおじさん :08:30〜17:30 定休日:毎週月曜日
cai     :現在、ほんのり休業中。新しい動きはまた改めてお知らせいたします。

詳しいお問い合わせは
coffee@web-sono.com
まで。